山下さんのお宅を出ると、雨が激しく降りだした。神社につくまでの5分ほどで、私たちの靴はぐっしょり濡れてしまった。
 神殿では、もうみなさんおそろいのようで、神主さんは祭壇近くに、そして参加者の方は神主さんと向かい合う形で座っておられた。お酒を少し召しているようで、雰囲気は和やかだ。
 私たちが入り口付近に座ろうとすると、“もっと前に来んね!”と手招きしてくださり、私たちは結局、祭壇に一番近いところに座ることとなった。周りの方から“どこから来たの?”“何人ぐらい来てるの?”と質問が飛ぶ。
 そうこうしているうちに、神事が始まった。まず、神主さんがこの祭りの意味を丁寧に説明してくださり、その後祝詞が読み上げられた。神事が始まると、今までの和やかな雰囲気が嘘のように、厳粛な雰囲気に変わった。
 どの方も背筋をのばして正座をし、頭を軽く垂れ、一心に何かに祈っているような面持ちだった。お供え物などいくつかのものに対するお払いが終わると、その後参加者の代表者が祭壇に榊を供えた。こうして神事は終了した。このあとは、熊野権現でもう一度神事を行うという。
 だが、みなさんなかなか移動しようとしない。なぜか、と思っていると祭壇にあげてあった供物、高く盛ったご飯をみんなで分け始めた。お酒を召し上がりながら、ご飯をひとかけら食べる。私たちも、ひとかけらいただいた。“おいしいね?”と尋ねる顔には笑顔があった。とてもおいしいですと答えると、“そうかね?普通の米と変わらんやろうに。”とお酒で赤くなった顔をくしゃくしゃにして笑った。

榊
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