山口市吉敷・中尾のヒガンザクラ 2002・3・14 ことしの桜はいつもより一〇日は早いのではないか。福岡では蕾はかなり膨ら んでいた。この日約束していた山口市吉敷をたずねた。地名研究者だった高橋文 雄さんが一〇年前に突然なくなった。そのお宅に山口県内各市町村の詳細な小字 地図が残されている。生前にわたしは氏にお願いして、いくどかそのコピーをい ただいたことがある。わたしはその保存を奥様の綾子さんにお願いしていた。山 口県文書館の戸島昭補佐に同行願って、お宅におもむいた。高橋さんのお宅は幹 線道路から山の中にわけ入っていく。あいにくの雨だったが、お宅横の斜面いっ ぱいに一〇本ほどの若木のサクラが咲いていた。彼岸の時期に咲くこの桜は彼岸 桜。ヨシノザクラよりいくぶん色が濃い。今年初めての桜だった。さいわいご家 族から寄贈してもよいとの意思が確認できた。ご主人は生前よく、俺が死んでも なにか社会のお役に立つようなものを残しておきたい、とおっしゃっていたとい う。しかし突然のことだったので、地図についての具体的な指示はなく、奥さま もその存在を知らなかったそうだ。文書館も受け入れ可能の意志を示された。お くさまはじめご家族がこの話をとても喜んでくださったことがうれしかった。雨 にぬれた桜の色合いもまたやさしかった。