歴史を読み解く・新聞書評
ハ 歴史を読み解く 服部英雄著 『二千人が七百の村で聞き取った二万の地名、しこ名』(花書 院)。タイトルを聞いただけで、気の遠くなるような仕事をやり 遂げた歴史学者による、歴史学の手引である。手引と言っても、 ノウハウを語っているのではない。 例えば、天草四郎が立てこもった原城跡に立って、島原の乱 を幕府・オランダ対キリシタン・ポルトガルの宗教戦争と読み 解く。森鴎外の小説「阿部一族」で有名な熊本市・妙解寺に殉 死者の墓を訪ねては、阿部弥一右衛門らの切腹の真相に迫る。 九つのテーマについて、定説・通説に疑義を呈し、自説を展 開しているが、その実証の過程が格好の手引なのだ。多くが「現 場」で感じたささいな疑問や感覚から出発していることも興味 深い。現代の風景から、風化の激しい過去の痕跡を読みとる歴 史家の想像力には舌を巻く。現場に取材して事実を認定する作 業は、記者と同じ。耳が痛かったが、現代こそ歴史の宝庫なの だと知ったことも収穫だった。 今週の赤マル / 読売新聞 2004.01.25 ハ