歴史の認識 現地調査レポート 「北方町医王寺の地名と暮らしについて」
調査者 1LT03031 門田 怜奈
1LT03026 小山田 佳代
1LT03051 小林 優子
話者 平川健治さん(昭和4年生まれ)
森はるおさん(大正14年生まれ)
平川さんの奥さん
平川さんの娘さん
<聞き取り>
小山田 :まず、この地域の昔使われていた地名に関してお聞きしたいんですが、(5000分の一の地図を見せて)ここに書かれた小字はご存じですか。
森さん :圃場整備する前はこの小字ばっかり使いよったもんね。
小山田 :(これは)圃場整備前の小字なんですか。
森さん :うん。
小山田 :じゃ、今のこの小字とは全然違うってことですか。
森さん :こ(れ)はどけや?
小林 :この、赤字で書いてあるのが多分今の小字なんですよ。
森さん :(地図を見て、)堀越、…
そぎゃんとなら(=こういう資料があるなら、)これはいらんとやったなあ。(大正10年の古地図を見せる。)こいは大正10年のったい。
小山田、小林、門田:すごーい!
奥さん :あ〜そぎゃんとば持たっしゃった。わたし達は(昭和生まれだから)知らんもんね、どうしても。
森さん :うん、大正10年、6月。
門田 :(地図を見せてもらって)いいですか。
森さん :こいが小字名じゃもんね。
小林 :(地図を指差して)これが川ですか。
森さん :ん?こいが道路やろ?確か。
小林 :え、じゃあこれは…
森さん :うん、こいが川になっとるよ。えっと…こいはどこや?岩石やけんが…
奥さん :岩石はそこやろな。
森さん :(ここが)岩石やけん、こいが堤から流れてくる川になっとる訳。ずっと。
:堤から流れてくる川ね。
小山田 :(資料を見て)貝良木っていうのもありました?
森さん :(地図を指差し)うん、貝良木はそれ。小字名じゃもんね。
小林 :(資料を見て)釘ノ元?
森さん :釘ノ元や?あるばい。
門田 :え、それはどの辺なんですか。
森さん :これには付いとらんや?釘ノ元は。(地図を見て)樽正津、貝良木、新坪、丁ノ坪…釘ノ元はこいじゃろ?あら、野中?うん、この辺、釘ノ元。あらせんかにゃ?
小山田 :(小字の地図を見て)載ってないです。
森さん :載っとらんや?
奥さん :そいはいつ作ったのやんね?
小山田 :これは…平成11年。
森さん :そいは真新しか!
一同 :(笑)
奥さん :もうだいぶ変わっとるもんね、今はね。圃場整備やなんやで。
門田 :釘ノ元っていうのはどの辺になるんですか?
平川さん:釘ノ元はばい、(地図を見て)丁ノ坪…この辺になかや?
森さん :(地図を指差して)こいが六角川じゃろ?
小林 :はい。
森さん :(地図を指差して)こいじゃあらせんかにゃ?野中はゆきおさん方の…じゃけんの?
平川さん:じゃけんこいばい。
森さん :そいから?
小林 :三ノ坪っていうのは?
森さん :そいに付いとらんかい?三ノ坪は?(地図を見て)丁ノ坪…ここんたいばってんじゃ?
平川さん:三ノ坪はそこんたいやろ?
森さん :おいが谷内住んでどったぎ、ここんたいよ。
門田 :野田?
森さん :野田?野中?野田も釘ノ元のここんたいばってんじゃ?
小山田 :野田と野中は違う?
森さん :うん、違う。
平川さん:(地図を指差し)ここんたいじゃなかや?うん、この辺やろね。
門田 :(資料と地図を照らし合わせて)釘ノ元は…ある。七田、勘取町、山西、谷内、谷内平…ありますね。新坪は?
森さん :(地図上の小字を指して)新坪はこいじゃろうもん!わいが書いたとじゃなかか?
一同 :(笑)
小林 :この他にはもう、地元でしか言ってない地名みたいなのは無いんですか?
門田 :(地名の載った資料を相手に見せる)
平川さん:守護町っていうのは上八田のことじゃろうもん。
娘さん :守護町っていうのは上八田のこの辺よ。
森さん :上八田や?
小山田 :…が守護町?
平川さん:大川から北がさ、下八田、ここ(南)が上八田って言おうもん。じゃけん、ここんとこば昔は守護町って言いよったたい。
森さん :あ〜そいは前んとやろ?
平川さん:そいでね、谷内(の人は)上八田って言うとよ。守護町っていう名称は無かもんね。
娘さん :通称で言うの?
小山田 :あ、じゃあ守護町って言うのが通称で、…
平川さん:うん、上八田のこったい。
娘さん :地番から言えば上八田っていうのやろ?でも守護町って(通称で)言うのやろ?
平川さん:そうそう。(地図を見て)今ここんとけ大きな川が流れとうっさい。ふっとか大川のね。そいで川からこっち(東)のもんが上八田になっとる訳たい。圃場整備でね。そいで川ん西が別法になっとるもんの。そいで大川ん下が細工町たい。こいは(この地図は)川が付いとらんもんね。ここの道路も無かろが。
森さん :もうこいは旧式版!
一同 :(笑)
平川さん:それでね、圃場整備してね、今ここに川が流れとうっさい。(地図を指差し)こいが川たい。そいで、こい(川)からこっち(東)が上八田たい。で、西が別法になると。そいで、(地図を指差し)ここの道から北が全部下八田たい。で、川から下が細工町になっとう訳たい。
娘さん :今はここに道があろうが?じゃあここから上が上八田、下が堀越?
平川さん:うん、ここから上が上八田、堀越っちゅうのは道から南、まつばらのそこんたいが堀越たい。そん細か所も全部堀越たい。
門田 :アヤマチっていうのは?
平川さん:アヤマチっていうのは七田の方たい。(指差して)ここたい。
小山田 :アヤマチっていうのはどう書くんですか?漢字は…
森さん :どぎゃん書くって…町史に載っとらんやったか?アヤマチって。(町史を見せる)
平川さん:(大体三ノ坪の呼び方も)サンノツボがほんのこっちゃろうな。皆サナツボ、サナツボって言うもんな。
奥さん :載っとらんやったね?アヤマチは。
小林 :(町史を調べて)無いみたいです。
平川さん:とにかくこの辺をアヤマチって言うたい。
門田 :え、漢字のほうは…
森さん :漢字は…おいは知らん、漢字は。
平川さん:おいはあんた達のごと大学生じゃ無かけんが!
森さん :おいは小学校しか出とらんけん!
一同 :(笑)
奥さん :知らんもんね、どうしても。名称でもやっぱり。
森さん :あの〜着物の綾。糸編かにゃ?
小山田 :あ〜こうですか?(綾と書いてみせる)
森さん :そうよ、確か。大体、あそこは着物の綾ば織りおったっちゅう。
門田 :それはどこになるんですか?
平川さん:そいは…ここ辺たい。(地図を指差して)
・座主田、西袋、十五ノ坪、折尾、新開、マエコガ、不動崎、ウーボイという地名と場所
を教えてもらう。
小林 :昔の田んぼに名前とかあったんですか?
平川さん:どこでんね、田ん中1枚1枚にさ、(例えば)堀越のとこは堀越の何番、何番っ
て番号が付いちょったと。
小山田 :それは圃場整備される前のものなんですか?
奥さん :うん、それでもその名前は今でもね。
森さん :(古地図を見せて)ほら、田んぼにも全部番号付いちょっとよ。
小林 :(古地図に記された田の番号を指差して)これが番号ですか?
森さん :そうそう。田んなかの番号。1枚1枚、こまんか所までぜーんぶ。
小林 :(現在の地図を指して)田んぼの形も、こんな風にキレイな風に分かれてなくて、もっと色んな形してたんですか?
奥さん :これ(古地図の田)は昔んとやけんね。今は圃場整備してあるけん、四角くくなっとると。
平川さん:今はもう圃場整備でね、道路とか川とかできて変わったけんね。
奥さん :前はここ(平川さんの家)の横は川だったもんね。
平川さん:そいでこの川も全部埋まってしまってね、圃場整備でね。
小林 :それなら、山の中の方に田んぼとか無かったんですか?
平川さん:それは無か。医王寺はね、上は田んなかっちゅうのは無か。ながいけに行けばあるばってんの。畑はあるばってん。
小林 :じゃあ、谷とか川の瀬や淵とかに名前はありましたか?呼び方とか、通称…
森さん :谷?
奥さん :山の名称はあるばってんの。
平川さん:山東っちゅうのはね、山のここ、入ってるでしょうが、こっちが谷内、谷西平、こっちが山東って言うたい。
森さん :ここはなん?医王寺橋や?こいは昔トントン橋って言いよったもん。
小林 :他にはそういう…池とかにそういう名前は?
奥さん :二段堤。
門田 :え、例えばここ(医王寺溜池を指して)とかは?
森さん :それは一段、二段、三段って言いよったろが。
奥さん :一段堤、二段堤、三段堤ってね。
小林 :古賀っていうのは?小集落のことを古賀っていうみたいなんですけど…
森さん :あ〜この集落の名前が?普通何古賀って言うもんね。この部落の集落が古賀って。
小林 :え、それが名前なんですか?
奥さん :うん、東古賀、貝良木古賀、西袋古賀って。
小山田 :え、じゃあこの班っていうのと…
奥さん :うん、一緒一緒。そいを5つにして医王寺ってなっとっとたいね。大字は芦原ばってんね。
小山田 :家に屋号?ってのは付いてたんですか?
森さん :あんまり屋号はむやみに使わんもんね。
奥さん :やっぱり田んなかの名称で言うもんね。
森さん :その小字の名前ば言うもん。
小林 :じゃあ、大木とか岩とか、そういう大きなものに名前付いたりしてました?
森さん :岩や?(奥にいた平川さんに呼びかけて)健ちゃん、岩の名前。お岩じゃなかばい。山の岩の名前。
一同 :(笑)
平川さん:岩や?
森さん :あのほら、コシキ岩って言いよったろうが。コシキ岩って岩の高かとがありはすんもんね。
門田 :それはどこに?
森さん :そいはこん地図じゃ分からんもん。
門田 :大きな木とか…
森さん :大きな木は…もう無かごた。もうお宮んとも切ってしもたし。
奥さん :銀杏の木じゃろ?
平川さん:うん、もうあぎゃんとは今んところは無かよ。
奥さん :白木蓮の(木の)太かとならあったもんね。あいはテレビにも出て。でもあんま名称があるような太かとは無かね。
小林 :それは、切られる前も名称とかは付いてなかったんですか?
平川さん:うん、付いてない。
森さん :神社なんかに植えてあったっちゃけどね。
平川さん:その神社がばい、前の平成…
奥さん :…2年の大水、水害ん時お宮が流れたとったいね。
森さん :鉄砲水が来てね。そいで太か木がね。
奥さん :まぁ山がふとかけん、水が来っときは酷かもんね。どぉーって来るけん。
森さん :(地図を見て)こいがあったけんとや結局。こんテレビ塔(へ)の道さ。
平川さん:こけ道作っとった訳やろが。こっから水がザァーって来てね。そいでお宮さんはここやろが。でお宮が流されたったいね。
森さん :そん時、あの楠木は下ばコンクリにしたろが。あいでいかんかったっちゃろ。もったいなかったよ。あげん楠木って無かったて。あげん見事なとは無かったもん。
門田 :じゃあ、古い道とか…
森さん :道や?道はね…ここに山道がこうあったばってんね。
門田 :名前とか付いてました?
森さん :名前の付いた道?そげんとは。(無かった)
門田 :名前の付いた峠とかは?
奥さん :妙見さんのあすこ、何とかって言われとる山は?知らんばってん。
森さん :(地図を見て)こいがさ、昔の道路になっとらせんかと思うどが。
奥さん :山道?
森さん :うん。こけ道がずーっとあいよったもんね。今はもう行かれん。この採石場でうっこんで(?)しまったもん。ここが昔の採石場。
奥さん :もう今は公民館の横になってるもんね。
平川さん:もうね、今はここは何も無か。この公民館のとこは何も道は無かもん。
森さん :お宮のお祭りの時さあ、こっち(の道)がもう近かって言って(その道を通って)行きよったっさ。
小林 :あのぅ、田んぼにはどこから水を引いていたんですか。
森さん :田んぼにや?(地図上の溜池を指差し)こいからこう。
平川さん:ここの溜池はね、水を落としてさ、ここが川になっとう訳やろが、ここの川にね、この水ばさ、こう来てこう(田に)入れよったっさ。そいで圃場整備の時にね、この道に沿うて(水路が)こう来てる。こけこうふとか川がある訳ね。この医王寺川っちゅうとはさ、排水じゃけんさ、ここは水を溜めじもう六角川さ、うっする水たい。この水がこっちで…
奥さん :用水路と排水路があると。
平川さん:こけ(溜池)に入れた水がね、この川からポンプで上げて(田に)入れよる。ポンプが6つある。(場所を地図で説明する)
平川さん:そのポンプで医王寺一体の水がね、このポンプで。
小山田 :それはずっと昔から(あったんですか)?
平川さん:圃場整備になってからはね。昔はこのポンプが全然無かった訳たい。
奥さん :個人個人で水ば汲みよったと。今は圃場整備したけんがそれだけが無いもん。お金はいるばってんがね。百姓さんも楽ではあっとたいね、今は。
森さん :(笑って)自分が汲までよかもんじゃけんの。
おいなんかは夜中にばっかい水ば上げよったばい。
奥さん :うん、そうじゃろうね。
小林 :え、何でですか?
森さん :水が下まで来ん訳やろが。上(の人)が先上げるけんが。
奥さん :前は水車でね、そうしよった。そいでせん時はポンプでね。
森さん :ポンプはそいからやったもんの。
小林 :旱魃になったりとかありましたか?
奥さん :無かった。(森さんに)昔はあった?
森さん :昔はあいよった。昔は旱魃になった時はね、もう水が無かったけんね、そこん水ばバケツでこう汲んで入れよった時があった。(笑)
小林 :え、その水はどこから?
森さん :全部ここ(溜池)からよ。
小林 :え、そこから持ってくるんですか?
森さん :いやいや、この小溝に流れてくっとばね。結局この堤の水も無かごとなってしまうとね。そいでね、雨も降らじね、ここの水もね、始めんうちは溜まっとるごたってん、田植えからずーっと使えば無うなると。あんま(溜池が)ふとなかけんね。そいで、小溝に入った水ばばこうて(=奪い合って)上げよったったい。
奥さん :今はね、ばたけの(?)堤があるけんね、そいで旱魃がなかとたいね。
平川さん:あいで助かったのう。
今の水はね、ここから落ちたとがさ、こう入るでしょうが。そいでね、田んなかに入ったとはね、またじき自然とさ、この川さ流れく訳たいね。田んなかに入ったとがぐるぐる巡ると。川に入ったそいばまたポンプで汲み上げて、そいで田んなかに入るっちゃろ。その水が4、5日過ぎ、また川にしか落ちらんわけたいね。そいばまた上げ、また上げってして…
奥さん :昔はさ、六角川さ、入りよったけんね。今は六角川さ入らんごと閉めてあるとたいね。そいけん、その田んなか落ちた水が川に入って、また上げ…ってどんどん回すとたいね。昔はポンプとか無かったけんね。多か時は全部川にうっせてしもて。今はそいが無かけんね。
平川さん:今は六角川さ(水を)うっするっちイメージはほとんど無かけんね。
奥さん :30年代はね、この辺は水の都で…
一同 :(笑)
平川さん:床上1尺も(水が)上がった。
奥さん :1尺って…ここん障子の桟のとこいまで上がったよ。今は圃場整備もしたか
らね。また前のごと(ひどく)降らんけん。平成2年にまた(水害が)来たばってん、そん時は大したことは無かった、こっちは。
小林 :平成6年は旱魃ありました?
平川さん:うんにゃ。こっちはね、もう水難儀はしとらん。
奥さん :いつだったか、旱魃が来たのは。
平川さん:芦原に来たのがさ。水んなし、ポールば立ててね、そしてこっからここまでしか水は入れられん、後はまた次さえらばなん、ってね。田んなか一面水が入らなんうち、止められよらしたもん。 医王寺に、「お前うちかて水ばくれんか、芦原はずっと水難儀して困るで」って。500リットルのタンクば持ってくるけんって。
(地図を見て)ここがね、芦原と医王寺の境たい。(この地図では)川がつながってないもんの。ここまで(川が)伸びてると。
小林 :なら昔は、旱魃とかなった時、雨乞いとかしたんですか?
平川さん:もうそら、昔々はしよったばってんね。六角川で、雨が降るごとって、神主さ
んばよんでね。
森さん :新橋まで行って汲んだことあったな、塩水を。(笑)
小林 :え、塩水を?
平川さん:六角川の水のね、塩のあんまりひどくない時は川さ入れてさ。潮の満ちてくときは塩水が上さ登ってきよったっさい。
森さん :そやけんが、圃場整備する前までは塩水が入りよったっさい。
平川さん:もう今はばい、ぴしゃーっと閉めとるけんがね、こっちには登ってこん。
奥さん :今はほらポンプのできたけんね、ポンプの水の多かときは六角川にすてるごた。
そやけん今は水害の恐れはなかたいね、家ん中にはいることは。
みんなで畳もはいで、たんすもかたづけて大変やったとよ。
次に、昔のお菓子についてお話を聞きました。ちょうせんあめ、いものんき、桑の実、
ぎしぎし、つばさなどを食べていたそうです。いものんきは、いもを炊きつめてあめをつ
くって、金太郎飴のように長く伸ばしてはさみで切ってつくっていました。ぎしぎしとい
うのは、つばなのことで、穂の先のところを食べていたそうです。つばさというのは、か
やの芽のことです。小学生の頃の話を聞かせていただきました。道はでこぼこ道だったけ
ど、学校へは冬でも裸足で行っていたそうです。
平川さん:手洗い場っちゅうのがあろうが、あっち水を溜めたっちゃ、その氷ばね、ジャブって踏んだくって割ってね、ザブッとつくと冷たかろうが、そんでね、チャプチャプってつけてさ、教室の中はいるとたい。
奥さん :わらぞうりはくとはよか家たいね。
森さん :おいらは裸足ばあやった。
奥さん :あー、爪きりよった、足の指の爪けってね。今んごと靴がよかばってんね、げたやらぞうりやらはきよったけん。
また、修学旅行で佐賀のにっぽさん(?)に汽車で行ったり、遠足で歩いていろいろと行っ
たりしたそうです。
小山田 :川の中や田んぼの中にはどういう生き物がいたんですか?
平川さん:どじょう、ふな、たにし、あめんぼ。どじょうは農薬使うごとなってから全然おらんごとなってしまったね。
昔は、田んぼを植えたあとは「どじょううけ」といってどじょうを捕まえたり、十月には
蟹が山からおりてきたりしていました。また、稲に虫がついた時は、水の表面に廃油をうかべて、稲に足で水をかけて虫を油の上に落として駆除していたそうです。
小山田 :稲の病気にはどんなものがあったのですか?
平川さん:イモチやろ。あと、シンガレ。
奥さん :苗しろに田虫とりってしよった。昔はね、田んぼにたんざくを作ってとりに行った種ばまいて、チョウチョが田んぼに産みつけとったたまごを学校さもっていきよった。農薬がなかったけんね、手でみんなとってもっていきよった。
小山田 :麦とかは作っていましたか?
平川さん:ああ、つくりよった。でもね、いなごがきよったなあ。でね、ビンば持っていってクイってとってビンにいれよった。
奥さん :いなごも食べよったったい、昔は。ゆがいて。
平川さん:ああ、いなごのつくだ煮ていって、おいしかった。
奥さん :ありゃ、終戦後たいね。
森さん :おりゃあ、食ったことなか。
小林 :何升蒔きとか何斗蒔きとかいった田はありましたか?
平川さん:うーん、すじ蒔きのことかね。すじ蒔きはせんばい。ばら蒔きばい。田植えの前さ、昔は、まん中の水田に苗どこっていって、そこにたんざくばつくって、種ば蒔きよったと。
奥さん :みち蒔きゆうて、まっすぐ田んぼん中にすじ蒔きつくりよった。まくときは、からからしたとこに蒔くとたい。植えたあとに、普通の水田と一緒に水がいくとたい。
森さん :田植えのかわりにするとたい。
奥さん :そう、田植えのかわりに、労力がなかときに。田植えでみんな雇わないかんかったけんね。昔は、余計つくりよったけん、泊まりこみでさ、田植えさによそからきよんしゃったもん。田植えのはやかとこから、こっちの家にきて、泊まりこみでしよったけんね。労力のなかときに、直蒔きてさ、暇なときにしとった。
門田 :どっちの方が盛んだったんですか?
奥さん :やっぱ、一時のことやった。長続きはせんやった。
小山田 :米は反当何俵でしたか?
平川さん:8俵。
奥さん :一俵60kgのよ。
森さん :480kgか。
小山田 :悪い田とかはどれくらいですか?
平川さん:うーん、やっぱり6俵か7俵くらいじゃないかね。
門田 :麦はどれくらいとれてたんですか。
平川さん:よけとれたら、300kgくらいじゃが、そんなにとれるもんはめったにおらん。悪いとこでは、金にもならん。
また、そばはつくっていなかったそうです。肥料は、魚を臼でついて粉にして使っていま
した。
門田 :共同作業とかはあったんですか?
平川さん:共同作業今しよる。
奥さん :前もしよった。田植え。
森さん :田植え、うちもしよる。
平川さん:あれ何年ごろやった?
奥さん :この人(娘さん)が(昭和)35年生まれやけん35年ごろしよったよ。35年時分。4,5年ぐらいしたやろね。共同作業ば、田植えばね。
門田 :それはなんて言うんですか?‘ゆい’ですか?
平川さん:ゆい?
奥さん :ゆいじゃなかれどんが、共同作業たいね。
森さん :ゆいってなんか?
奥さん :‘いい’って言いよったろうが。加勢に行くんよ。お隣に加勢に行くゆうとね、そうゆうお金もらわんでね。あの加勢うけたときに、またお返しにね、行きよった。
平川さん:相手からきてもらうかたい。
奥さん :お金ば操作せんでね。
森さん :お互いじゃもんね。
門田 :そのお手伝いの人は早乙女って言ってたんですか?
奥さん :田植えにはね、早乙女って手伝いにきよんしゃった。そりゃお金ばやらないかん。
門田 :え?早乙女はお金払うんですか?
奥さん :うん。早乙女はね、来てくださいって頼んだらね、泊り込みでさ、たくさんつくとこはね来よんしゃったけん、ほしたら朝ご飯食べさせて泊めてね、そいで帰りはお金ば払うてね、来よんしゃった。
門田 :じゃあ共同作業はお金はなしで?
奥さん :うん、なしで。こっち(早乙女)は反別でね、大体こうわけてね、余計つくとこと少のうつくとこがあるでしょうが。やけんが余計つくとこは反別、たいがいいくらぐらいってして、お金で操作して。そらしよった。
門田 :早乙女に行かれたことはあるんですか?
奥さん :あるよ。
小山田 :田植えが終わった後に打ち上げとかはなかったんですか?
森さん :さなぼり。
奥さん :うん、さなぼり。
平川さん:さなぶりよ。
森さん :さなぶりがね、こっちの種まきばしてくれた人が、頼んだ人がね、さなぼりにお金をうめてくれて、この人が。
奥さん :頼んだときはね、お金は払わないんよ。
平川さん:そのきまりとばい。今にもね、さなぼりってある。昨日やったけん、さなぼりは。
小山田 :田植えのときに歌ううたとかあったんですか?
森さん :ない。
平川さん:なんのうたや?田植えうたか?
森さん :歌うひまなかない。
一同 :(笑)
森さん :今は田植えうたもはやっとうけんな。
小山田 :草切山とかはあったんですか?
奥さん :山はなかたい。田んぼにつくると。今は減反でね、田んぼにつくると。
小山田 :昔はあったんですか?
奥さん :昔は…草切は山に(あった)。昔は草ば切って。今は減反があるけんね、田んぼに作るばってんね。昔は米作ってけんが、減反がなかったけんね。
小山田 :薪とかは?
奥さん :薪はいらん。前はいりよったと。前はかまどで焚きよったけんが、今はガスばっか。
小山田 :昔はどうやって手に入れていたんですか?
平川さん:山で採っとったと。
奥さん :共同山で薪ば採りよった。寒かとき、一月頃ね。
小山田 :共同山っていうのは、入り会い山とは違うんですか?
奥さん :共同山とは違うと。
平川さん:共同山てね、仮に人間がね、組合の30人じゃ、35人じゃ多いでの、山の所有者だけが、ここからたきもんを採ってよかって、共同でたきもんとり集会ってしよったと。そして1週間ばかかって、共同でとって個人個人で分解してしよった。
森さん :今はもうなかもんな。
小山田 :それはその山は今もあるんですか?
平川さん:今現在もあるよ。山はある。
奥さん :妙見山ってあるわね。
門田 :こういう山(地図を指して)とかですか?
奥さん :そうそう。妙見山ってなかね?
門田 :書いてないです。
平川さん:かんげつ山からさ、妙見山が⋯眼鏡かけにゃ、こんなもの(笑)
門田 :かんきり山のところにあるんですか?
平川さん:反対側。あんにゃ、村山じゃ。
門田 :反対側っていうのは?
平川さん:(地図を指して)ここが熊野神社じゃろ、ここ道やろ?ここからこの辺が妙見組っていって、昔の36人の共同山やったと。こっちはね、医王寺の村山。今は減ったばってんね、昔は36人やった。
森さん :今何人や?
平川さん:今は26人⋯24人。そこで、共同でたきもん採りをして、15人もおるけんね、15人で自由に分けよったと。それば面々に持って帰って一年中の薪にしよったと。
小山田 :木の切り出しというのは、木馬ですか?
平川さん:木馬とかしよらん。肩でね、かたげて、持って帰りよったと。車のとこまで、あとは車でね。
小山田 :土引きとかは?
平川さん:土引きもしよらん。人間36人からおるけんね、面々肩にかついでね。
小山田 :川流しっていうのはなかったんですか?
森さん :そんなんなか。
平川さん:そりゃ、炭焼きやら何やらしよるもんがさ、
小山田 :あ、炭焼きはしてたんですか?
奥さん :いやしよらん。
小山田 :昔もしてないんですか?
平川さん:しとらん。
小山田 :山を焼くこともなかったんですか?
森さん :野焼きや?
平川さん:そりゃ、鹿児島や湯布院に行きゃ、野焼きをするばってんね、こっちはなか。
小山田 :キイノっていう地名は?
森さん :焼畑はなかよ、うちは。
平川さん:キイノってなんか知らん。
門田 :野を切るって⋯
奥さん :この辺は山がなかけんね。
小山田 :こうぞとかとったりしたんですか?かごとか。
平川さん:こうぞ?なんや?聞いたことなかばい。
門田 :山栗は採ったりしたんですか?
奥さん :山栗はつくりよったったい。
平川さん:つくっとるや?
奥さん :山栗やろ。栗の木あったたいね。
平川さん:ありゃ、個人でつくったんじゃなかろうもん。
奥さん :個人でつくったろうもん。
平川さん:ありゃ、山栗じゃなかろうもん。
奥さん :同じことくさ、栗は。
一同 :(笑)
平川さん:昔はね、私らが小学校の時分はね、どんぐり拾いってありよった。
森さん :何しよったと、どんぐり拾って。
平川さん:ありゃー、なんじゃろ⋯
奥さん :油とおてるてね。
平川さん:どんぐり拾ってね、小学校行きよう時分にね、学校さ干しよった。
森さん :おりゃ、どんぐり拾いじゃのうてから、松のやにかね、ありゃしかしらんけ。
門田 :他に山の木の実とかで採ったものはありますか?
平川さん:樫の実じゃ、どんぐりじゃ、そがんとやろ。
森さん :椎の実とか拾いよった。
門田 :食べるんですか?
奥さん :椎の実は食べれると。
平川さん:樫の実は食べよらなんだな。
森さん :ありゃ、しぶかったもんな。
小山田 :かんねっていうのは?
奥さん :葛やろ?葛の根。
森さん :そがんとはとらん。
小山田 :他に山の幸みたいなのは?
平川さん:ないごっつってな。
奥さん :新芽んとこにできるとたい、春。新芽んとこに、こう、だごのごたあたい。
森さん :聞いたこたあなあな。
平川さん:おれも食ったことなかもん。
森さん :それから、まきの木の実。うずめぐって言って、あの赤うなる、あれも食いよったもんな。
小山田 :川にはどんな魚がいたんですか?
平川さん:ふな、どじょう、もうなんでもおった。めだかが今全然おらんのう。
小山田 :昔はいっぱいいたんですか?
森さん :おったおった。
平川さん:どんこもおったしね。
門田 :どんこ?
平川さん:どんこ。石の中にね、いらっしゃたもん。今はブロックでぴしゃーとしよるばってんね、昔はね、石が陰だとか、石をそのままぽーんとしとうわけたい。そやけんね、どんこが隠れよったわけたい。私らが細かときにな、石ばのかして、穴ん中こう探して、ババッてかみつきよったったい。どんこ探しいきよったばい。いしかりどんこつらつらするな、釣れた次に釣られるぞって言いよったもん。
小山田 :川に毒流しとかしてましたか?
平川さん:そんことせん。そんこと、毒流しやこう。真面目やけん。
一同 :(笑)
門田 :野草で食べられるものと食べられないものは?
平川さん:野草ね、わらび、ぜんまい、つわ、ふき。あんたらはそがんとは食うたことなかと?
小山田 :ないです。
平川さん:なかと?!あと、だらの芽、山いちご(野いちご)、ウドもあった。
小山田 :逆に食べられないものは?
平川さん:農薬がついとるもん。
一同 :(笑)
平川さん:とべら草って。
奥さん :ありゃ、薬ばい。どくだみのこと。
平川さん:ふつ。
奥さん :ふつは食べれるたい。
平川さん:春先ね、ふつがごちそうたい。ふつもちって。ありゃあ、何ていうかね?
奥さん :よもぎばい。
小林 :お米はどんなふうに保存していましたか?
平川さん:こづっていって、それに保存しよった。下は湿気があるけんね、ちょっとした棚の上にこづを置いとった。春先、4、5月頃米虫のつくけんね、今は冷蔵庫入れとる。
小山田 :ねずみとかは?
平川さん:ねずみ、食うさ!
森さん :今は冷蔵庫ばってんね、昔はこづで置いとろじゃろ、ねずみが食いよった。
平川さん:ねずみが食うて、半分のごた、減りよった。
小山田 :昔の暖房は、冬はどうやっていましたか?
森さん :いおり。
奥さん :こたつね。昔は練炭焚きよった。練炭ごたつ。今は電気ごたつ。
門田 :米作りで楽しいこととか、苦しいこととかありますか?
奥さん :楽しいのは、収穫するとき楽しかばい。
門田 :苦しいときは?
森さん :苦しいことばかりたい。楽しいこと以外は苦しかたい。
奥さん :昔はね、暑かっても草とらんもんやったけんね。炎天下でもしよったけんね。それがきつかったよ。
小山田 :お祭りとかこの辺でないんですか?
奥さん :お祭りあるよ。熊野神社のお祭り、お祇園さん。7月29日が夏祭りたいね。秋祭りが10月19日。
小山田 :共同風呂とかあったんですか?
森さん :共同風呂あったよ。
小山田 :‘もやい風呂’って?
森さん :うん、もやい風呂って言いよった。
門田 :昔は、病気になったときとかはどこで診てもらってたんですか?
森さん :病気になったら病院じゃろうもん。
小林 :結婚前の若者たちが集まるところとか?
奥さん :うん、公民会やろもん。前は何ち言うとかね、あすこは?
森さん :前や?あれは青年団。
小林 :青年クラブ?
森さん :そう、クラブ。老人クラブじゃなかばい!
一同 :(笑)
森さん :青年クラブってね、結婚する前は若い人のところに寄って、そこで寝泊りしてね。
小山田 :そこは男の人だけじゃないんですか?
奥さん :そうそう、男の人だけよ。泊まるのはね。
門田 :規律とか厳しいことは無かったんですか?
森さん :厳しいことあったよ。もういらんことするときにゃ、今で言う三角の薪に座らせる!
一同 :(笑)
森さん :あれを3本じゃ、4本じゃって並べてばい。薪はとがっとうけんね。
門田 :上下関係とかが?
森さん :うん、上下関係がひどかった訳たいね。そん頃は。結局戦時中たいね。
小山田 :戦時中でもそういう青年クラブっていうのはあったんですか?
森さん :あったよ。公民館っていうのは戦後の。
小山田 :そこで集まって、寝泊りして、何をするんですか?
森さん :結局、そこでは若いもんばっかで、大体「夜学校」って言いよったもんね。夜学ぶ。
奥さん :青年団で良しも悪しもね、やっぱそこで学びよったっさい。そこで人間作りばしよったっつこったい。成人になるとばね。
小林 :何歳ぐらいからですか?
森さん :まあ小学校卒業して15、6歳やね。そん頃は徴兵検査で、20歳から懲役になって軍隊行かないかんやろ。まあ合格したもんが軍隊に行く訳たい。そいまではその青年クラブに入って。
奥さん :人間教育たい!
一同 :(笑)
奥さん :そぎゃんとこで色々ね、学ぶとたい。
森さん :うん、いらんことも習うばってんが。
小山田 :徴兵検査っていうのは20歳で?
森さん :うん、満のね。俺が兵隊行ったときに、「(徴兵検査が)19からになった」って、おいがボルネオにおる時まさきひでとしさん(?)から手紙来て。おいは志願していたとったろが。ボルネオにおる時さ、ちょうど手紙と慰問袋と来た訳たい。手紙を見て、あら、おかしかねえって。
奥さん :そうね、戦争が厳しゅうなったけんね、やっぱり早う徴兵しよったもんね。
門田 :戦後で、食糧難になったときに、犬とか捕まえて食べたことは?
奥さん :食べよった〜!昔はね。
森さん :今はホラ、牛肉とか豚肉とかあるばってん、前はね、ほとんど無かったね。まあ、野良犬とかウロウロしようごた犬をさ、捕まえて食いよった。
奥さん :おひまちてんね、ごらいさんて昔はしようしやったもんね。百姓の?ばあるときがさ。そぎゃんときがさ、酒ん肴に捕まえて殺して食べよった。それと鯨があったくらいでね、肉が無かったけん。
小山田 :犬は簡単に捕まえられるんですか?
奥さん :うん、捕まえる。
この他にも、すいかをとったりしたことはありますかという質問をしたときにはすいか
だけでなく、干し柿やきなうり、とうもろこしを盗った話などをしてくださいました。す
いかをとるときは、見張り役がいる番小屋に、5,6人が石を投げたりしたそうです。
とったすいかは今の公民館である青年クラブに持って行ったそうです。また、とうもろこ
しはとうきびと呼ばれていて、とるときにバリっと音がするので、わざと台風など風が強
く音が聞こえにくい日にとったそうです。
聞き取りはここまでです。
<終わりに>
この日は平川さんご夫妻と森さんは近所で不幸があり、お忙しい中調査に協力して下さい
ました。貴重なお話を聞かせて下さって、有難うございました。この調査を通じて、昔の
暮らしや地名について知ることができたし、何よりフィールドワークの楽しさを実感でき
た、大変良い機会だったと思います。この体験をこれからの大学での勉強に生かしていき
たいです。