2009前期文系コア　歴史の認識

山口　恵穂

上野　早也香

 

佐賀県唐津市鎮西町塩鶴における地名調査

 

7月１２日日曜日、私たちのマイクロバスは８：４５分に九大学研都市駅を佐賀県唐津市に向けて出発した。天気は快晴。前原有料道路に入ってすぐ、右側の山の中腹に周囲と調和のとれていない近代的な建物が見える。九大伊都キャンパスだ。茶色の１０階建ての工学部がひときわ目を引くがその横にはセンターゾーンの透明な建物も見えている。わたしたちはいつもあそこで眠い目をこすりながら講義を受けているのだ。しかし今日は違う。自分たちで連絡を取った塩鶴地区のご老人に会い、しこ名を聞き出し、昔の生活の様子を話していただく現地調査に出かけているのだ。大学の授業ではこんなこともするのか、と戸惑いもあったが現地がいまどのような様子なのか、お会いするのはどのような方なのか期待が膨らんでいったのも事実である。

 

出発して１時間ほど、車内では研究室から借りたボイスレコーダーの操作方法を覚え、試しに録音してみたり、今日する予定の質問内容を確認したりして過ごした。このとき住宅地図を見ていて気がついたのだが、訪問予定の長谷川さんのお宅はバスが停まる県道から細い道をかなり進んだところにあるようだった。地図の縮尺の問題もあるが、バスを降りてからいったいどれくらいかかるのか、迷わずに辿り着けるのか不安になってきた。唐津市に入り、１グループ、また１グループとバスから降りていく。呼子でトイレ休憩をとった時にはもうバスに乗っているのは半分より少なくなっていた。

 

呼子を出て１０分ほど走ったところで塩鶴に到着した。予想通りといえば予想通りの田舎である。道路沿いに１０軒ほど民家があるがその裏はもう田んぼである。バス停で住宅地図を広げてみた。今日お会いする長谷川春義さんのお宅は息子さんが経営する長谷川歯科医院のとなりと聞いている。今いる場所からほど近い脇道に入るらしいがどうも不安である。目の前にあった日高商店が営業していたのでそこのご主人に「長谷川歯科医院はどちらですか？」と聞いた。「すぐそこの道を左に行ったらいいよ。歩いて行くと？それならまぁ10分ぐらいで着くやろ。」ご主人の10分という言葉を聞いて安心した。もうすぐ11時。日光が私たちを攻撃しているような暑さだったからだ。

 

長谷川歯科医院に続く道は意外にも坂道だった。進行方向左側は田んぼであるが、右側はところどころ数件ずつの民家が現れる。こちら側には少し畑があり、小さなビニールハウスも３棟ほど見えた。しばらく進むと、長谷川歯科医院の看板が見えてきた。どうやら迷わずに辿りつけたようだ。窓から一人のおじいさんがこちらを見ている。私たちのことを待っていてくれたようだ。「九大の学生さんかね？」そう言いながら玄関まで来てくださった。私たちは玄関に近い和室に通された。さっそく地図やノートを広げて質問を始めようとする私たちに春義さんの娘さん初巳さんがお茶を出してくれた。お茶を飲んだ後、いよいよ質問を始めた。

 

 

山口：「この地図をみてください、このあたりの５０００分の１地図です。この地図に書かれている地名のうち塩鶴はどのあたりまでか教えてください」

地図を見ながら

春義さん「これがヨコタケノタメ（横竹溜）でこっちがシオヅルノタメ（塩鶴溜）これが権現様（ゴンゲンサン）、こっちのナガタニ（長谷）も塩鶴のうちやねぇ」

　　　　お宮さん（権現様）が打上との境になっているということだった。

 

山口：「ここに書いてある村田は字名ですか？」

春義さん：「村田でしょ、字名の小字になるのかな。戸籍とかには使ってないもんね。塩鶴の中の村田やもんね。村田っちゅうのは横竹の境からこっち側。」

山口：「吉祥寺っていうのは塩鶴の地名ですか？」

春義さん：「吉祥寺は打上のお寺じゃないかね」

ここで娘さんが春義さんに耳打ちするがここでは吉祥寺が何なのかわからず。

春義さん：「原口も塩鶴の部落」

 

山口：「これに書いてない土地の名前はありますか？」

春義さん：「川からこっちがハッタンダ。反対側がムラタ（村田）」

どうやら地図に書かれている八坂あたりのことをハッタンダと呼ぶようだ。

ここで春義さんと一緒に地図を見ていた初巳さんから

春義さん：「吉祥寺はビシャモンさんのこっちゃろか？」

初巳さん：「わからんけどちょうどそこらへんやけビシャモンサンのことやろうね。ここらへんで横竹との境になっとるんやろ」

 

山口：「屋敷谷というのはわかりますか？」

春義さん：「わかんないわ～もう」

 

ちょっと気分を変えるため、反対側の隣接地区、赤木付近について訪ねることにした。

 

山口：「赤木との境はどのあたりですか？」

初巳さん：「赤木との境は赤木分校のあたりじゃないですかね」

 

ここで春義さんが赤木溜を気にし始める。赤木溜は塩鶴の外れにあるようだが、近く

浦田という地名が書かれているのでここは塩鶴の一部なのか尋ねてみる。

 

山口：「この浦田という場所は塩鶴ですか？」

初巳さん：「浦田とかいうのはこれはもう赤木でしょう」

春義さん：「赤木のことはわからない」

 

 

だいたい塩鶴の範囲がわかってきたので、塩鶴内のしこ名を聞き取ることにした。

 

山口：「塩鶴のもっと小さい名前はありますか？」

 

春義さん、娘さんとも地図を真剣に見ながら・・・

 

娘さん「ここがカマブタやないと？」

春義さん「そうそうカマブタを探しよる。」

 

カマブタとは地図で原口と書かれている場所にある５件ほどの地区を指すようだ。

山口：「５件だけですか？少ないですね」

初巳さん：「塩鶴の中のカマブタっていうところ。ここらへんがカミグチ。そしてここらへんがムラグチ。あとここはチャヤグチ（茶屋口）。それからサワヤマとかいうとこがここらへん。」

春義さん：「県道の向こう側がサワヤマ（沢山）サワヤマは火山灰をつくるとこ」

山口：「火山灰？」

 

春義さん：「噴火した泥が火山灰のやわらかいところ。火山灰を小さい粉にしてね、呼子から佐世保の軍港のドックに持っていって、釜にそのまま押さえつけて水の漏えいを止めたりするのに使っていた。」

山口：「粘土のようにして使うんですか？」

春義さん：「粘土にはせずにそのまま使うんよ、カマスに入れたまま使って水が通らないようにする」

娘さんからカマスとは袋のことで袋に火山灰を入れて土嚢のようにして使うことを教えていただいた。サワヤマには火山灰工場があったということだった。

 

義春さん：「さっきいいよった吉祥寺は毘沙門さんのことやないかね」

そう義春さんがつぶやく

 

山口：「このあたりは全部田んぼでしたか」

娘さん：「この（家の）あたりは畑、今田んぼのとこは昔も田んぼ。圃場整備とかはあるけど」

 

このあと義春さんが塩鶴の圃場整備について語ってくださった。

 

春義さん：「塩鶴の耕地整備は大正１２年ごろから始まって１３年に済んだんかな。１５年にだいたい書類関係が済んだ。役人さんたちは１３年にお伊勢さん参りをして東京見物、日光まで行って帰ってきた。」

山口：「どなたが行ったんですか」

 

春義さん：「わたしのね、お父さんたちが行った。」

「その時に溜めも小さいものだったのも大きくして、その当時干ばつが続いても塩鶴溜めは大丈夫って言って。溜めの上のほうに行ったら、梅雨のころトンボでこすったら水がボコボコ出てきて水が流れてくるから溜めはよかった。それから今度、漏水がひどくなったから私が区長をしとるときにお願いして、昭和４２年４３年の２カ年がかりで。堤防を木で打って、私たちが中に入って歩けるような大きい鉛管を入れた。U字溝を入れたのはもう少し遅くなって私が役をやめたあとやったな、圃場整備をやって。」

 

山口：「どういう圃場整備でしたか」

春義さん：「最初のうちは丸い田んぼが続いていて、１度目（大正）は四角い田んぼやったけど２回目（昭和）の時は１枚を２０アールとか大きくして、そんときに水路にU字溝をはめた。」

 

春義さん：「それからもうひとつの話、これは図面ば見て言わないかんな」

 

ここからは春義さんに水争いについて面白いエピソードを聞かせていただいた。

 

春義さん：「クツワイデの話ばせんないかん。ウメノキダニはないかな？クツワイデって石のところの地下から水がボコボコ出よる。県道の下になる。」

　　　　　「県道の近くに水路が来てないかな。赤木と塩鶴のちょうど境にあってちょうどそこにはクツワイデって言うように…っあクツワって知っと？」

山口：「はい、馬の・・・」

春義さん：「馬の轡の名前から、そう名前つけとった。水が出るので赤木と塩鶴が喧嘩せんように高さが２メートルかな、横が１メートルくらいの石垣を川の真ん中につくっとった。」

山口：「石垣のこっち側が塩鶴の水で反対側が赤木の水ということですか」

春義さん：「自然的に水が半分になるようにわけてあった。雨が降ると上から小石が流れてきて埋まるから掃除する。そのときアワビなんかの貝で掃除する。ツルハシなんかではされん。穴があいて水があっち側に行かんように」

山口：「水が赤木に逃げないように、ですね（笑）」

 

春義さん：「昭和１４年の干ばつの時、赤木側がノミで水を持っていった。私は兵隊行っとってよく知らないけど。それで赤木と塩鶴と喧嘩した。役場に行って２晩寝ないで話し合いをしたと書類が残っていた。」

山口：「役場ですか」

春義さん：「そう、村長さんが仲裁をしてくれたんやろうな。それでもうその時はちゃんと解決がついて。今はコンクリートで固められてクツワイデもないんやろうけど。」

 

 

山口：「隠し田はありましたか」

春義さん：「部落の田んぼちゅって、部落の名義になっとう、２０アールぐらいあるよ。」

山口：「それはどこにありますか」

初巳さん：「それは塩鶴溜のちょっと下あたり、そこらへんで区長になった人が作る。」

 

娘さん：「今はだれか作ってるんですか」

春義さん：「今は作ってないよ。そんな隠し田はない。」

初巳さん：「部落の持ち物って感じ」

 

山口：「川や水路に名前はありましたか」

春義さん地図を見ながら・・・

春義さん：「ここに書いてある江頭川以外、川はない」

 

初巳さん：「塩鶴溜から出てきているここは？」

春義さん：「溝、溝（笑）赤木小学校のあたりから川、小学校のところで、赤木と塩鶴からが合流して大きくなっているから」

 

春義さん：「あとは名前は知らない。あとは溝。村長さんが県に修理をお願いしに行ったとき、これは溝よと言われて修理してもらえなかった（笑）」

 

山口：「家に屋号はありましたか」

春義さん：「屋号って別にないけど、ここは下のほうから言うと、ミナミノソラと言われとった」

初巳さん：「南のほうにあるからミナミノソラとかミナミノハテとか言われていました。」

 

春義さん：「それからあっちに見える家がタカゾエって言って。タカゾエは元は向こうにあったけど、この場所に住んでた人が飲んでしまって売って、タカゾエにいた人が来たからここがタカゾエになった。」

 

春義さん：「昔、ここに便所やら家があったのを覚えている。飲んで金がなくなってしまって売って、そこをタカゾエの人が買って移り住んだ。」

　　　　　「別に屋号はなかね」

 

山口：「峠や谷はありますか」

初巳さん：「道路をもう少し行ったところに菖蒲谷があるくらい。バス停もある。」

 

山口：「大きな山はないですか」

娘さん：「そうですね。権現さんがあるくらい。」

 

山口：「ここらへんの田んぼは塩鶴溜と横竹溜から水を引いているのですか」

初巳さん：「横竹溜は使えない。塩鶴溜から引いている。」

 

山口：「水の量は塩鶴溜のほうが多いですか」

初巳さん：「そうですね。塩鶴溜のほうが多いですね。」

山口：「大きくした甲斐がありましたね」

 

山口：「このあたりの田んぼは早場米ですか」

初巳さん：「そうですね。もう５月の初めに田植えをします。」

春義さん：「もう盆過ぎには刈るよ」

 

山口：「昔から早場米ですか」

春義さん：「２０年ばかり前からかな。早場米の試作をしてできるっちゅうことなったからやって。コシヒカリだな。」

 

山口：「水のきまりはクツワイデ以外にありますか」

春義さん：「圃場整備してからはない。」

山口：「塩鶴の中で喧嘩はありましたか」

娘さん：「ないない（笑）」

 

 

山口：「水の中には生き物はいましたか」

春義さん：「圃場整備する前はハエやフナがおったよ。」

山口：「いまはもういないですか」

春義さん：「今はもうきちっとコンクリでされているから来ても停まるとこがないんじゃないかな。それからガネ取りが稲ができるころガネが下るからできる。取りくる人がおるよ。」

ガネとは初め何のことかわからなかったが、娘さんが気づいて助け船を出してくださった。

 

春義さん：「圃場整備する前は川にガネかごを入れて取りよった。商売にはしないで自分のうちで食べるだけ。商売にするような魚はおらない。」

 

 

山口：「雨乞いはありましたか」

春義さん：「私たちがこまいときまであった。学校に村中寄ってやったことあるけどね。」

山口：「どんなことやりましたか」

春義さん：「各婦人会の方が踊りをしたりしよったけどね。もう今から９０年前の話やけどね。」

 

山口：「ほかにも何かありましたか」

春義さん：「ときどきこのお宮さんで打上部落の人がドンチンカンチンやりよったけど、おれは部落が違うから知らない。」

 

山口：「お宮さんは打上のお宮さんですか、それとも塩鶴のお宮さんですか」

初巳さん：「両方です。」

 

 

山口：「麦など米以外のものは作っていましたか」

初巳さん：「前は作っていましたけどね。夏は田んぼ、秋は麦を作ってね。」

春義さん：「第１回目の圃場整備してからは田んぼに麦が作れるようになった。菜種と麦をつくりよった。」

 

山口：「今は作っていますか」

春義さん：「コシヒカリを作るようになってからは麦を作る暇がない。菜種もね。４月いっぱいには稲植えるから。まだそのころだったら青々していて実ってないもん。」

 

山口：「何俵ぐらいお米はとれていましたか」

春義さん：「一反に元は8俵ぐらいできよった。コシヒカリが来たころは。今は７俵できたらいいほう。地力がないんやろうね。」

 

山口：「田植えのとき手伝いの人はきていましたか」

春義さん：「今は機械でほとんど内輪だけだけど、元は２，３日かかるから、金を払って来てもらいよったけどな。」

 

山口：「ユイとかカセイとか言っていましたか」

春義さん：「それはあったね」

 

上野：「さなぶりとかはありましたか？」

初巳さん：「ありました、ありました。」

上野：「どんなことをするのですか？」

初巳さん：「それは、おこわとか炊いてね……」

 

上野：「田植えのときに歌は歌っていましたか？」

春義さん：「なんもない」

上野：「稲刈りのときもですか？」

初巳さん：「稲刈りもない。」

春義さん：「そんなん、歌いながら稲刈りとかせんよ。」

上野：「昔は馬とか牛を使っていたのですか？」

 

初巳さん：「うちは牛を使っていました。馬を使っているところも、まぁ一軒か二軒か……」

上野：「オスとメスのどちらでしたか？」

初巳さん：「普通、家の中で使うのにオスは使いませんよ」

上野：「オスは気性が荒いからですか？」

初巳さん：「いえ、そうじゃなくって。オスだと後に売れないじゃないですか。子を生まないから。」

山口：「生んで子牛を売るんですか？」

初巳さん：「そうそう。」

上野：「手綱はどうやって操作していたのですか？手綱は１本ですか？２本ですか？」

春義さん：「牛は１本ね。馬は２本の両方。牛はさっさっさっさっちして、しっぺた（尻）をぽっぽっち叩く。それと、さっと引っ張っちょってちゃんとやるか、緩うしっちょってやるかはいろいろ。」

上野：「ウノ牛（メス牛）を大人しくさせるのはどうしていたんですか？」

春義さん：「わぁわぁっち言いよった。止めるのはわぁ。」

上野：「えさはどこから持ってきていたんですか？」

初巳さん：「自分の稲を作っているから。」

春義さん：「けいはんから。田んぼ、畑のけいはんからね、元は。それを草切って。」

山口：「馬を飼っていた家も同じものを食べさせていたんですか？」

初巳さん：「おんなじものでしょ、大概。」

春義さん：「それと藁とね。馬を飼うたことはないけど、私こまかい時は、おったからね。小麦のぬかを入れたりね。精米所に行ったら米ぬかが出てるから、それを混ぜたり。そして、使うときにゃあね、ムギを炊いて食べさして、元気をつけてくたびれんように。」

上野：「馬とか牛は毎日洗っていたんですか？」

春義さん：「毎日洗わないねぇ。使ったときはね、洗ったりしようけど。毎日そうゆうことはしない。うちはしてない。」

上野：「洗うときはどこで洗っていたんですか？」

春義さん：「洗うときはねぇ、さっき言ってた江頭川の端で、深いとこがウマイレ川っち言いよったから、そこに連れて行って。水溜めとうですよ、そこを１０メートルばかり引いて回ったり。汗かいちょったら背中を藁で擦ってやる。」

上野：「皆さんそこでやっていたんですか？」

初巳さん：「はい」

 

上野：「薪はどこから取ってきていたんですか？」

春義さん：「薪は自分の山を切るんですよ。それぞれ持ってるから。それがないときは山を多く持っている人から買うと。それか自分で切る。」

 

上野：「お菓子は何を食べられていたんですか？」

春義さん：「特別に買うてもろて食べないけどね。芋がありゃ芋蒸して間食するしね、団子作って食べたり、お祝い事があるときは、昔はタンヨウとか、それとか、法事のときは野菜の格好作ったのをもろうてくるからねぇ。」

初巳さん：「タンヨウていうのはね、砂糖で作った菓子。鯛の形した、砂糖で作るんですよ。」

春義さん：「それ貰ってくりゃね、少しずつ近所に分けたりね。」

 

上野：「食べられる野草とかありますか？」

春義さん：「栗が生りよう頃は山行って遊びがてら、ちぎってくるけどね。山には今頃は、柿が生るよ。」

 

上野：「鼠とかは出ていましたか？」

初巳さん：「鼠はおるよね、今でもおるのに。」

春義さん：「鼠はいくらでもでてくる。ちょうど５月頃になると、子が生まれてね。それをはよ見つけたらいいんやけどね、殺したら。」

上野：「その対策は何かありますか？」

初巳さん：「鼠捕りのかごやね。」

 

上野：「昔の暖房とかは何を使っていましたか？」

春義さん：「畳を切って、そこに囲炉裏を作ってあったから、そこでみんな囲んであたりよったと。そこにイザカギっちいって上からつるしてあったのに鍋でもなんでもかけて。大根とか煮てね。それから、丹前をきて。」

初巳さん：「丹前はながいの、半纏は半分のね。」

春義さん：「丹前っち言うたら、綿入れよ。」

 

上野：「川原やお宮の境内で蓑を直したり、売っている人はいましたか？」

春義さん：「いないよ。皆自分で買ってた。中には、藁で編んで作る人もあったけどね。あんまり、そんなの作ってまでして着る人はおらん。」

 

上野：「戦時中は犬とかを捕まえて食べたりしていましたか？」

初巳さん：「そんなん、ないない。」

春義さん：「百姓は芋とか作ったりしよったけ、腹はへらなかった。」

 

 

ふと気がつくと、質問を始めてから約２時間が経過していた。お昼時でもあったので、質問を終了しおいとますることを申し出た。すると初巳さんが昼食はどうするのか尋ねられたので、持参していることを伝えると、お茶を出していただき、そのまま応接間で昼食をとらせていただいた。今回の調査では塩鶴地域で過去に２回圃場整備が行われたことや、隣接地域との水争いがあったこともわかり、有意義な訪問調査となった。