【西松浦郡有田町応法】

歴史の認識

 

前原茂雄

S2-151TE98643 山口徹�ｶ

調査日：1999年7月10日

調査地： 応法

話者：(聞取り順・敬称略) 副島米雄(昭和9(1934)年生)

原田時雄(明治43(1910)年生)

原田ルイ(大正4(1915)年生)

古川豊久(昭和12(1937)年生)

 

<地名>

〈地名〉

応法(おうぼう)……由来は不明。ただし、字弥源次に応法の由来になったという庵があったと現在の慶雲寺僧から聞いた人がいた。またその慶雲寺の先祖の寺があったとも伝えられている。弘法大師との関係を推定する人も。

八幡元(はちまんもと)……八幡があったという話はない。しかし副島米雄氏宅東方に宮があったという伝承を聞いたことがあるという人も。

弥源次(やげんじ)……由来は不明。人名に由来?

松山(まっやま)……不明。

掛ノ谷(かけのたに・かきんたに)……由来は不明。昔も畑はあったが水田はない。鍋島藩の「隠れ窯元」があった。

向島(むこうじま)……不明。

猪子谷(いのこだに・ちょこだに)……不明。

伯父山(おじやま) ……不明。

地蔵峠(じぞうとうげ)……応法から上有田地域に行く峠。昔から(今も)地蔵があることからそう呼ぶ。昔は道幅が狭く、1mくらいの幅しかなかった。

かしのき峠(かしのきとうげ)……応法から黒髪(くろかみ)地域に行く峠。山の頂上付近にある。付近に、掛ノ谷にあった隠れ窯元の秘密保持のための見張り台があったという。現在では石垣跡が残っている。

大神宮さん(だいじんぐうさん)……八幡元の由道を北に上ったところに大神宮さんがある。現在の天照皇神宮の元か。昔は冬場の薪や焚き木の採集場所だったが、昭和43年の水害以来岩が落ちて入りにくくなったため今では殆ど登る人がいない。

いっぱい水(いっぱいみず)……大神宮さんへ登る途中にある。そこで「いっぱいみず」を飲んで疲れを癒していたことからそう呼ぶ。

ぶだいおとし・ぶちゃあおとし……由来は不明。大神宮さんにいく途中にあり大きな岩がある。昔この一帯を7人の強い武士が支配していたとの伝承もある。現在はがけになっており、人が落ちたこともあると伝えられている。

弥源次川(やげんじがわ)……弥源次を流れているからそう呼ぶ。昭和23年の水害のときに大量の土砂が流れ、低かった川底が上がった。

一の谷(いちのたに)……弥源次川上流から見て最初の大きな谷。また掛ノ谷を霧名「二の谷(にのたに)」とも呼ぶ。大神宮さん付近と同様薪の採集場所だった。

黒岩(くろいわ)……由来不明。明治中期、当時石屋だった古川氏が上質の石(後の応法石)を発見し、以来採石場所だった。大正期には採石しなくなった。

おおむくろ……不明。八幡元橋の南側の谷。

 

こぶ山(こぶやま)……由来は瘤のような形だからか。掛ノ谷と伯父山の中間にある。

高弥源次(たかやげんじ)……「偽金毘羅(にせこんびら)」さんとも呼ぶ。由来は瘤のように突き出ているからか。

金毘羅さん(こんびらさん)……高弥源次と「はってんさん」の間に突き出た岩のこと。金毘羅宮が勧請してある。

はってんさん……由来不明。「はってんだん」とも呼ぶ。

どんどう水(どんどうみず)……不明。弥源次川砂防堰提のやや上流。

せおとし……不明。現在の「弥源次窯」の南側を流れる川。'

黒岩峠(くろいわとうげ)……不明。この峠をもって西有田町と有田町との境とする。以前は細い道で大変物騒だった。狸が出るという話もある。

清水谷(しみずだに)……清水が湧くからそう呼ぶ。水は西有田町のもので応法の人から見ると山が迫って物騒なところであった。少し前まで養鶏場があった揚所のこと。

伯父山の堤(おじやまのつつみみ)……以前は今よりもっと狭かった。堤を高くしたので広くなった。少なくとも90年以上前からあったが、もともと黒牟田地区を灌概する池で応法では耕作をしなくなったこともあり、応法の人は管理などには関わらない。堤が切れたことはない。大人も子供も含めて、応法地区の人たちのよい水泳場所であった。

からす岩(からすいわ)……「からすが」とも。由来はいつも鴉が多いからとか。場所はこぶ山の中。

 

<屋号>

徳幸(とっこう)……窯元の名。

武堅(たけけん)……窯元の名。小さい亀の一種「ぐず」が近くに棲んでいたことから、通称で「ぐず谷」とも呼ばれた。

原重(はらじゅう)……窯元の名。

吉右工門(きちえもん)……窯元の名。

石屋(いしや)……明治中期以来応法地区の資産家だった。黒岩付近で上質の石を発見し、「応法石(おうぼういし)」として手広く加工・出荷した。その後大正期に石の出荷をしなくなっている。

 

<水害>

二十三水(にじゅうさんすい)……昭和23年の水害のこと。「佐働保空襲のごとき」雨で、こぶ山の方から土砂崩れ、弥源次川の底を上げた。

四十三水(よんじゅうさんすい)……昭和43年の水害のこと。弥源次川上流から土砂が流れ込んだ。このあと、川をコンクリートで固め現在の流れとなった。

 

<祭祀・行事>

応法は「早盆」のため7月が盆となる。盆に入る前に「施餓鬼供養(せがきくよう)」ため応法地区の檀家は寺(慶雲寺が多い)に赴く。今年はちょうど今回の調査日、7月10日がその日だった。

金毘羅さんの祭りが8月10日にあり、鐘や太鼓を鳴らしながら金毘羅さんまで上がる。現在では8月1日に日を移している。

8月1日と11月15日には大神宮様の祭りがある。ここで言う「大神宮」は集落内にある「天照皇神宮」のことで、八幡元の山の中にある「大神宮さん」のことではない。いずれも以前から日は変わらないが、夏祭りの方にはいっからか金毘羅さんの祭りも加わっている。

祭りの運営は家々を6組に分け2組ずつ3年交代で当番している。また、春と秋の2回、有田地方の霊場参りでお遍路さんが来るので接待する。接待はおやつ程度の軽い食事とマッチを出す。

*地図は前原さんが自分と連名で提出しています

 

応法感想

歴史の認識

佐賀県有田町応法地区調査感想

S2-151TE98643山口徹郎

 

自分は当初行く予定であった有田町赤坂地区に、「新しい団地なのでそういった調査は出来ないと思う」という先方からの連絡で行けなくなってしまったため、急遽行き先が有田町応法地区へと変更になってしまった。急な変更になってしまったのは、先方に手紙を出す遅さなどひとえに自分の不手際が悪いのだが、おかげで院生の前原さんといっしょに楽しい調査をすることが出来た。

調査段階では前原さんの豊窟な経験のおかげで、自分はただひたすら話者の話すことを記録するだけであった。「冷たくあしらわれたり、頑固な爺さんとかいたらどうしよう……」とかいう心配もあったが、応法の人たちは皆好い人たちばかりで、声をかけた人全てが快く調査に応じてくれた。

また、応法の人たちは自分のむらに非常に誇りを持っており、「むらの人間が、むらの物で、むらの事を」することに大変うれしそうだった。それを示す一つの話に、応法石の話があった。直接自分の家が応法石に関わったわけではない人が、明治期から今も変わらず残っている応法石の蔵の話をするとき、本当に力強くまたうれしそうに語ってらっしゃったのが印象に残っている。応法は窯元のむらで全て自給自足することは不可能なのだが、その中にもやはり「誇り」または「プライド」といったものが見えた。

要するに応法の人たちのように自分が住んでいる所を旨を張って外の人たちに紹介できるような、そういう誇りを持ちたいものだと、そういうことを思ったりもしたというわけだ。

 

話は変わるが、自分の母方の実家が香川のため、金毘羅さんやお遍路さんなどの話はずいぶん興味を引かれた。本家八十八ヶ所参りはしたことがないが香川の金毘羅さんには登ったことがある。海を越え、山を越えて信仰を伝えた入がいるというのを目の当たりにして、歴史を少しだけ「認識」出来た。またそのことに軽い満足感も覚えた。

ここまでだと今回の調査は大成功のようにも思えるが、失敗がなかったわけではない。

まず調査の前段階での準備が不足していたこと。結局準備していたところで不要となっていたのだが、それは結果論でもし実際独りでどこかへ調査にいく事になったらとても今回ほどの結果は望めない。

調査にあたって一番困難であると思われる人と接するという行為を、すべて前原さんにまかせっきりだったので、他の人に比べれば「ずいぶん楽をしてしまったなあ」というのが正直なところである。

それでもそれなりに良い物は出来たと思うのでよしとしよう。

調査にご協力いただいた応法地区の皆さん、前原さん、服部先生、ありがとうご

ざいました。同時に、大変ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ございませんでした。

以上