歩いて歴史を考える

1LA99233　松木剛宏

1EC99083　谷口泰正

調査にご協力下さった方：野中良信(72歳)

西有田町広瀬村：しこ名一覧：クラモト、ヘイゴノタニ、タニグチ、クボ、ツキマワシ、ユノキノ、ムカイ、カミ、ヤマノクチ、マツバ、シシガワ

しこ名の由来：クラモト、その昔、多くの蔵が建っていたため。

　　　　　　：ツキマワシ、広瀬村の中を流れる広瀬川が複雑な流れを形成して

おり、川が囲むような地形のため。

 

広瀬村の内に：山地として、ナンザン(南山)村から見て南に位置しているため。

タヌキヤマ(狸山)狸が数多く生息しているため。

溜池として、ヒョウタン(瓢箪)溜池　地図上だとその形が瓢箪であるのがわかる。しかし、当時のことを考えると不思議でならない。

　　　　　　　　　　ササ(笹)溜池　池の周囲が、笹で覆われているため。

　　　　　　　　クロキ(黒木)溜池　由来はわからないが、この池は共有林内にある。

堤として、チャブレ(茶ぶれ)の堤がある。この堤は、黒木溜池に接している。[チ

ャブレ]が何を意味するか、よくわからないが小さい頃からその様に呼んでいたそうだ。

 

　72歳というお歳にもかかわらず、幼い頃からの通例として、しこ名などを使っていた例が、思ったより多かったような気がする。実際、もはやしこ名が聞かれなくなって久しい、ということであった。

 

〈広瀬村について教えてもらったこと〉

　広瀬村を流れる広瀬川、その上流からは、竜門の名水が土地を潤しながら下っていきます。その広瀬村を訪れたとき、普通の山地とは少し違い、山が複雑なかたちで、かつ密集している様に驚きました。また、段々になった水田も斜面の角度の割に、ひとつひとつの面積は広くなっており、その苦労が感じられました。

 

圃場整備前の水田の状態について

　やはり、良田と悪田の差は大きかった。とのことであった。圃場整備は、収穫できる米の総量を増加させたであろうが、その反面、現在の平均化した収穫量から考えて、良田そのものの収穫量を減らしてしまったのかもしれない、とのご指摘もあった。

 

化学肥料以前のこと

　化学肥料の導入によって、米の収穫が増えたことは事実であるが、それ以前は何に頼っていたのか？それはもちろん、自作の肥料である。そこで、少しそのことについてお聞きした。

　牛糞や山から採ってきた草木で腐葉土や肥料を作ったそうだが、驚いたのは、昔は、肥料共進会というものがあり、肥料作りのコンクールがあったことだ。優良者は、表彰されたそうだ。肥料の量と質で競うのだろうか。当時は、生活に密着した大切なことだったのだろう。

 

共有林の使用について

　広瀬村には、数箇所の共有林があった。薪や材木として木々は消費されていたそうだ。ここの管理は区役は交代交代で受け持ったようだ。

 

牛馬は飼育について

　牛や馬などの動物は、一家に１頭は必要であり、鷄も豚も大事な食用の家畜として飼育されていた。とはいえ、食用というよりも、労働力であった牛は耕地には欠かせない存在だったようだ。

 

貴重品について

　山の中であるため、いろいろと貴重さったと思うが、やはり、魚が高価であまり食べる機会がなかったそうだが、その魚は、伊万里から手で担いで持ってきたそうだが、その魚は、伊万里から手で担いでもってきたそうだ。想像を絶する労力によって、運んでいたのだろう。塩は、一年分ぐらいを買いだめしていたようだ。

 

米の保存方法について

　米は十俵入るぐらいのブリキ缶にいれていた。そのブリキ缶を(カンカン)と呼ぶ通称があった。

 

テレビもなかった時代について

　娯楽の手段として、テレビもなかった頃に一体何をしていたのか、質問してみると、戦前、後のころには、青年会があり寺に皆で集まって、話をしたりするというのがあったようで、ほとんど毎晩家には居らずに一緒に柿泥棒をしたりして楽しんだようだ。

 

広瀬川の治水事業について

　広瀬川の上流には、今は竜門ダムができたため治水に問題はないようだが、そのダムができるまでは治水は大きな問題を抱えていたために、二、三年ごとに氾濫して田を押し流したそうだ。ダムができたといっても、二十年ぐらい前にできたばかりで、そんな最近まで大変な被害を被っていたのか、と思うと驚くばかりである。

 

広瀬村の水利について

　広瀬村には数箇所の溜池があり、村の真ん中を広瀬川が流れている。この水を利用するのだが、干魃のときには殆どを川の水に頼らざるを得ず、その水を人力で田に汲み入れて枯れさせないように努力した。

 

広瀬村の農業について

　広瀬村では、専ら米を生産しているが、その裏作としては麦が代表としてあげられる。また、以前の国の政策でみかんを山に植えていたそうで、いっときは全戸が植えていたようだ。しかしながら、植えても買い手がいるわけではないので、現金収入にもならずあまり意味はなかったようだ。しかし、広瀬村にかかわらず全国にそういったことが見られたに違いない。かわって、有田全盛のころは、一家に一人は陶業関係の仕事についていたようだ。少し離れたところにありながら陶業が盛んであるのをみるのに、有田に限らず、大変な広範囲で陶業が盛んだったのがわかる。

 

大木山について

　広瀬村から西の方に、大木山という山があったそうで、現在の大木(オオギ)と山谷(ヤマタニ)のあたりがそこにあたるらしい。大木と山谷の地名は、もちろん大木山に由来しているとのこと。

 

感想：準備に手間取ってしまい、急のこととしてお聞きしたのにもかかわらず親切にお話してくださった野中さんにまずは感謝の気持ちを述べさせてもらいたい。突然お邪魔してご迷惑をおかけしました。

　今回の現地による聞き取りは、色々な意味で価値を持つものであると思う。私たちは、佐賀が出身でないために初めて知ったことや違いを感じさせられることが多く、その経験は深い驚きによってもたらされた。世代の違いやときの流れが間に合ったが、そんなことは関係なく理解し合おうという空気のようなものが互いを包んでいた気がする。そして何度もいうが、大変に貴重な経験だった。

　実はというと、あまりに準備がうまくいかず、かなり心配した。結局取り越し苦労には違いなかったが。二人で協力することは結構難しい。コンタクトがとれずに悪戦苦闘だった。しかし、終わった時の充実感が再び行ってみたい、とさえ今は思わせる。

　そして、未知との遭遇が今回は多かった。物事を探求する喜びを知って嬉しい。服部先生にもご迷惑をかけたが、終わって安心している。どうもありがとうございました。