三養基郡上峰村船石地区】

現地調査レポート

S1-26 有迫哲朗

板村智明

 

しこ名について

 それぞれの水田には小字としこ名が付されているが、小字とは公的、行政的な正式名称であり、土地の売買などに使われるに対し、「しこ名」とは農民が普段日常的に使う水田の呼び名で、村の人々の間では立派に通用する伝統的なものである。区長さんにしこ名を教えて欲しいと尋ねると、すぐにしこ名のことを理解して下さって分かり易く教えてくれた。

 しこ名はその田の持ち主が昔、勝手に付けたものであり、現在まで口承で伝わってきた。そのため、その名前の起源がはっきりしないものがある。またその名の漢字は分からず、平仮名でそれぞれのしこ名を教えてもらった。

 水田のしこ名の境界線はそれほどはっきりしないと古老はおっしゃっていた。しこ名の中には名前の由来が分かるものがあり、例えば「まえだ」といのうは、部落の前にある田という意味。「のうしろ(苗代)田」は苗代を育てる田、「かんかんいし」という所には昔大きな石があってそこに太陽のがかんかん照りつけていたそうだ。また「おおこい」という所では船石で米が一番収穫できる所で、一反当たり8俵程度でかりとった稲をつり下げる棒が折れるほどだったと言っていた。

 しかし今ではそこの土地には巨大な工場が立ち並んでいる。区長さんたちが子供の時は学校から帰ると、今日は「〜の田」(しこ名)で手伝え等言われたそうだ。また、収穫時など忙しい時には学校が1日、2日休みになったとおっしゃっていた。

 しこ名は現在でも家族の間では頻繁に使われたそうだ。しかし、最近では圃場整備が行われ、水路や田の形が変わるため、おそらく自分たちの代でしこ名は使われなくなるだろうとおっしゃっていた。しこ名が忘れ去られる前に調査しておいて良かったと思った。

 

船石の水利のあり方

 この船石では主に東の堤と呼ばれる船石溜池と、切通川という川から引水している。切通川にはいくつかの「いで」(堰のこと)がある。川の上流からしこ名に分けてみると

・きんつかいで……きんつか、さんだだ、こうろ、のうしろなど。

     このいで(入力者注:にのいで、か)……まえだ、このやま など。

・つっといいで……つっとい など。

 

水利権については非常に厳しいものがある。たとえ自分の水田のそばを水路が流れていたとしても、それを勝手に汲み上げて利用したりすることはできない。もし、勝手に利用したりしたら、袋叩きにされるらしい。それほど水は農家にとって命の次に大切なものなのである。

旱魃で自分たちの水源である溜池や川が涸れた場合は、一定期間、一定水量を他の堤から分けてもらうらしい。それはそういう条件でその堤をつくるための労力やお金を負担したから旱魃のとき利用できるのだ。

昨年の水不足のときは川や溜池が干上がり、川を掘って浸み出た水を水田にくみ入れたり、他の堤から分けてもらったりしたらしい。例えこれが30年前に起こったとしても同じ方法でそれを克服しただろうということだ。

水はその部落の繁栄を左右する。水が高いところから低いところに流れるという性質をもったため、低地に住む人は水源をもつ高地に住む人にかなわないのだ。改めて水の大切さを実感した。

最後にこの調査に協力して下さった森崎信さん(区長 昭和9年生まれ)、川原勝美さん(前前区長 大正11年生まれ)、大変お世話になりました。



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