室見川滝川連日入渓

10月23日
 9時6分西新発のバスで上石釜へ。水路橋を渡って入渓。子ども達と来た夏に
比べると格段に薮が薄い。昨日K先生と飲みすぎたせいで、腹の具合が悪い。
堰堤上で渓流靴に。10時10分。今回の同行者は大学院生。沢登りは初めてで
きのう渓流足袋を買った。二十五歳。四十八歳の私の半分の若さだ。日頃の不摂
生、肥満、加えて下痢腹では太刀打ちできまい。と思ったが、彼も巨漢。体重過
多。花乱の滝までで既に遅れだす。この滝の中段に不動明王のあったことは前に
は気がつかなかった。滝を林道まであがって巻き、落ち口を覗く。これよりしば
し林道沿いの遡行が続くが、渓相はよい。林道の側壁の石垣の中段をいって腹這
いになって岩を登る淵もある。堰堤手前にビバークに良好な地点あり。ただし林
道に近すぎる。堰堤の巻きは猛烈な枯れ枝に苦しむ。間伐、枝打ちのものか。堰
堤上は明るい砂の川原。明日、子どもと来るときはここにテンパルことに決める。
薪も先ほどの枯れ枝を取れば豊富。続く上も渓相よし。林道はみえなくなる。途
中川縁にベンチがあったが、林道建設以前の昔の金山登山道が沢に降りてきた地
点であろうことは翌日分かった。滝は快調に登り進む。木の上から淵のまん中に
垂らしたロープがあったが、ここまで車道が来ていることも翌日知る。やがて
『九州の沢と源流』に写真のあるゴルジュ滝に出る。最初は左のかぶり気味の岩
を反り返るように進む。落ち口では傾斜のある岩を、ホールドのひっかかりを便
りに進む。しかし同行者はかなりビビって悩んでいる。古い残置ハーケンが2本
あるが、1本は立てリスと横リスを間違えて打っている。セルフビレイ用だろう
が、手持ちがなかったのだろうか。ビナは通せないからテープを使ったのか。あ
れこれ詮索する。次の滝も一旦岩を下ってフリクションをきかせて登る。トラバ
ースのところには割に新しいハーケンがある。しかしこんなところでジッヘルし
てもザイルは横に伸びるだけ。気休めか。全体ここのハーケンは余りきわどいと
ころには打っていない。
 こんなところは、もちろんノーザイルで快調に突破した----つもりだったが同
行者がついて来ない。10分ほど手や足を動かしては引っ込めている。そばまで
いって登り方を説明するが全然あがれない。立木でビレイを取って上からシュリ
ンゲを垂らしてやったら、やっと登った。
 この上にはちょっとしたナメ滝とその奥に大滝がある。大滝の中段にも何か彫
ったものがあった。これも登れそうにないので左から巻く。ガイドブックの丸木
橋はスチールの橋になっていた。ここを越えた日当たりの良いところで昼食。1
時ぐらいだったと思う。このあとも割に感じの良い滝が2、3続く。ハヤにして
は大きな魚影が二つ。ウグイだろうか。その正体も翌日判明する。
 ガイドブックには薮がうるさくなったら新道に逃げると書いてあるが、さすが
に秋。うるさいところはわずか二〜三メートルでどんどん行ける。しかしすぐ横
が登山道では白ける。おまけに同行者が楽な方に入って先に行き出す。途中初め
て人に会う。女性の二人連れ。私と同じぐらいの年なのに「沢登り、若い人はい
いわねえ」とか言っている。やがてびっくりするような三段の滝が現れた。下二
段は楽勝だったが、上一段はかなり膝を濡らして最初のステップを切らなければ
ならない。その上が登れるかどうかよく分からなかったので巻いた。下り口は岩
から飛び降りるようなところだった。この上の炭焼きガマあとで休む。あくなく
水源を求めるつもりだったが、道は全く沢づたい。とうとう登山道にはいる。や
がて大きな二俣から左へ。やがて水流は細くなり、伏流になる手前で水をくむ。
室見川水源地点を確認した。もっとも天気次第で上下するような沢のなかの水源
だ。いくぶん紅葉めいて、秋の山の良さをしみじみ味わう。しかし登りはきつい。
杖を拾って歩く。
 やっと千石荘からの道に会う。それよりわずかな急登で頂上へ。一等三角点だ
った。少しモヤってはいるが、佐賀の山合いの村がみえる。地名調査で学生とい
った三瀬村、脊振村だ。北山ダムらしきものもみえる。五分ほど送れて東が到着。
案外元気だ。午後三時、正味五時間の遡行だった。背振山がみえないかと稜線を
いくが展望はほとんど利かない。引き返して下山、わずかで福岡タワーがよくみ
えるところがある。尾根を下り、玄海原発からの高圧線下で休み、四時四十五分
千石荘着。バスは七時までない。多々良瀬まで行くが五〇分後までバスはない。
陽光台まで歩いて五時半のバスに乗る。西新のわらじ屋で一杯やって帰宅した。

10月25日(土)
 朝から支度をして10時45分の昭和バスに乗る。このバスは室見川に沿って
遡っていくが、水がとても美しかった。きのうと同じ道を今日も行くが、ずっし
り荷は重い。側溝にヤマカガシが死んでいた。ホテルを過ぎた田圃で12時にな
った。「お弁当にしよう」といったら、上からおりてきた母子連れが、「まあお
弁当だって、いいわねえ」。田のなかの水路の草を分けると、ちょうど樋で作っ
た手を洗えるところがあった。明るくてとても気持ちが良く、田の隅には紅葉し
た大きな木がみえる。よいところだ。
 滝への下り口を過ぎてきのうのコースを右に見ながら登っていく。1時過ぎに
テント場と決めてあった河原に下りる。途中、川で食事をしている車が2〜3台
いたけれど、幸いここには誰もいなかった。きのうより日は落ちているが、子ど
も達もキャンプに最適の場所と喜んでいる。
  例によってテントのフレームがなかなかはいらず、時間がかかるが、設営終了。
シュラフに入って暖かいと喜んでいる。子どもにも手伝ってもらって薪取り。シ
ュリンゲで2束、十分すぎる。2時半頃釣り。伊吹に割に大きなハヤがかかった。
飯盒に入れておく。そのあと一人で釣りに行ったらなんとエノハ(山女魚)の稚
魚だった。テント場までもっていって子どもと記念撮影。福岡市内、室見川で山
女魚が釣れるとは思ってもいなかった。昨日の魚影もエノハに違いない。今回の
最大の収穫。禁漁期でもあり、放流。あと林道終点までいってブランコの淵で釣
ってみるが、あたりはなし。ここで沢雄が川にはまり、不機嫌の伏線となる。貴
重なハヤを食べるか逃がすか考えるが、沢雄が食べるというので針金に刺して吊
りさげて焼いた。まだ動いていたので、伊吹は少しショックを受けたよう。カレ
ーは作りすぎて沢雄が食べ過ぎ、体調、そして気分をこわす。みんなで歌を歌お
うといって、せっかく伊吹が歌っていたのに中断。「もう2度とキャンプには行
かない」と泣いている。大体が暗闇がこわいのだ。テントに入れて私は焚き火で
ビールを飲み続ける。あとで見に行ったらもう寝ていた。狭くて寝にくかったよ
うだが、夜中に水が飲みたいといって起きたときには機嫌は直っていた。

10月26日(日)
 朝5時に伊吹の声で目を覚ます。起きてしまってので焚き火をしてカップヌー
ドルの食事。6時20分白みだす。釣りに出かけ、ハヤを4匹釣り、きのうのエ
ノハの淵までいくが、あたりなし。7時40分、キャンプ地。伊吹のハローイン
に間にあうよう大急ぎで撤収。8時25分に、子どもを先に歩かせ、私は40分
に出発。55分に国道手前の田圃で追いつき、9時12分のバスに間にあった。


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