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むねん 宮本雅明さん

朝の新聞の見出しに九大名誉教授が事故死。 本文を読み進んでいくと「宮本雅明さん」とある。 驚愕した。 どうしてそのような事故に巻き込まれたのか。 九月九日の朝倉市小石原ダム水没予定地区調査委員会では、わたしの隣の席にすわっていた。 離村を強いられた村の沿革と建物の構造、その歴史的関わりにつよく関心を示していた。 寡黙だったが、話すことばには力があった。 かれが調査した町並みはみな国重要伝統的建造物群に指定され、保護された。 彼の調査対象は母屋だけではなかった。生業にかかわる付属建物、馬屋や納屋など、それ自体は人々が重視しないような建物にまで目配りをした。 かれの手腕の一端である。 会が終わってわたしは隣接の温泉に入ろうと誘ったけれど、ひきつづいて次の会議の約束があるから、といっていた。 夕方5時を過ぎていた。大学をやめて自由な時間を求めたのに、そこまで過密にスケジュールをくむものなのか。 今回も日田市の講座が終わってから朝倉市の会議に向かっていたという。 失ったものはあまりに大きい。 本格派、正統派の遺産保護者だった。 九州の文化財保護には大きすぎる打撃である。 なにより本人が無念であろう。 偶然、運命----そういうものに翻弄されてしまった。 われわれも、とても無念である。 2010,9,24   服部英雄  2010・9・24毎日新聞朝刊

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