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『河原ノ者・非人・秀吉』で 第66回毎日出版文化賞・人文社会部門を受賞できました

 

毎日出版文化賞:珠玉の5点選出

毎日新聞 2012年11月03日 東京朝刊  ■人文・社会部門  ◆『河原ノ者・非人・秀吉』=服部英雄著(山川出版社)2940円  ◇中世被差別民の役割、追究  いくつかの新聞紙上で秀頼が秀吉の実子ではないことを明らかにした興味深い研究として大 きく取り上げられた。ただそれは本書の最後の部分でふれられているもので、全体として中世 の被差別民の活動や歴史に果たした役割を真摯(しんし)に追究し、叙述した研究書である。 中世史料に多くみられる河原ノ者、非人、声聞師(しょうもじ)などについてその実相を明ら かにするとともに、秀吉を被差別民から天下人にまで上りつ めた脱賤(だっせん)の具体的な 事例として取り上げている。さらに秀頼誕生の謎についても、大胆だが説得力のある推論を提 起する。  必ずしも新しい史料によったものではないが、キリスト教宣教師のレポートを含むさまざま な史料の厳密な 読み直しによって旧説・異説を論破する手法は、歴史研究の醍醐味(だいごみ) を味わわせてくれる。各地でのフィールド調査を踏まえ、さらに民俗学的事例をも参考にする など、新しい歴史学の方向性をも示している。読むものに人間の歴史の生々しさを実感させる とともに、差別に対する憤りを共感させる優れた歴史書である。(白石太一郎)

毎日出版文化賞の人々:/服部英雄さん

毎日新聞 2012年11月05日 東京夕刊  犬追物(いぬおうもの)という武芸があった。学校の日本史でも、馬上の武士が走る犬 に弓を引く場面が出てくる。しかし考えてみると、あの犬は一体誰が準備したのだろう?  この本に答えがある。  中世、河原ノ者や非人といった差別された人々が社会の不可欠の役割を果たす姿を活写 した力作である。河原ノ者は時に1000匹もの犬を調達し、競技場に放ち、騎乗の武者 のわきを疾走した。進行の一切を生き生きと仕切っている。  「彼らが絶望的な生き方をしていたなんて、ありえません。大切な仕事を担い、自らの 技能に誇りをもっていたことを訴えたかった。疎外はあったにしろ、彼らは不屈の思いで、 逆に差別する側にプライドを示していたと思います」  他にも土木や工芸……彼らの仕事は多様だった。技量を買われ、足利将軍に偏愛された 庭師がいた。一方 で、利権をめぐる血みどろの抗争を繰り広げる一団がいた。これらのす べてがわが日本史の欠かせない要素だと知るとき、読者には過去がまったく新しい光景と なって迫ってくる。  文化庁に16年間勤め、城や荘園など全国の中世遺跡を調査した。その現場体験から、 「あるき、み、きく歴史学」を標榜(ひょうぼう)する。古文書の地名と現況を対比させ、 歴史の真相に肉薄する。  「書斎派の研究者もいるけれど、文献史料は残り方が偏っています。特定の立場の人が 特定の利害に基づいてつくったものだから。史料を広く、複眼的に見るためには、現場か ら考えることが必要でしょう」  現在に至る問題の差別を直接扱うだけに、研究の姿勢を明示する。  「史料を隠すというのが今も世の中の主流です。でも、正しく知っておくことが必要。 実際に相手と話したりすれば、差別したりはしないと僕は思うんですね」。「悲しいことに、 知らない人間だけが差別を続ける」と、本の「おわりに」に書いた。  終章。太閤(たいこう)秀吉の生い立ちに絡め新説を展開する。歴史を動かしたのは誰 かとの問いがまた刺激的だ。  歴史観や世界観、読んだ人のその後に影響を与えずにはおかない一冊といえるだろう。 【伊藤和史】 ==============  ■人物略歴  ◇はっとり・ひでお  名古屋市生まれ。九州大大学院教授(日本中世史)。63歳。 ―――――――――――――

贈呈式記事


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